森里海の色
四季の鳥「アオバズク」

巣立ち雛の夜の散歩

青葉木菟村に夜遊び廃れずに  大野林火
夫恋へば吾に死ねよと青葉木菟 橋本多佳子

夏至も近い今頃は一年で最も日が長い季節ですが、仕事を終えて家路を辿る頃には辺りは夕闇に包まれています。ホッホッ、ホッホッ、ホッホッと、鳥の鳴き声が川向こうの林から聞こえてきました。フクロウの鳴き声とは違う単調なテンポの繰り返し。少しもの悲しい鳴き声の主はフクロウの仲間のアオバズクです。
アオバズクは主にアジア地域とロシア南東部に分布し、日本には夏に繁殖のためにやってきて、東南アジアに南下して越冬します。全長は30センチほど、ハトと同じくらいの大きさです。大きな黄色の虹彩、頭部から背にかけては黒褐色、お腹は白く、太い褐色の縦斑があります。

青葉木菟

数年前の夏初旬、辺りが暗くなった頃を見計らって、アオバズクの巣立ち雛の夜の行動を観察しようと、住宅街の小さな神社に行きました。神社の境内には大きなタブの木があり、暗がりの枝を丹念に探すと雛が3羽いました。境内で掃除をしていた女性の話では毎年5月中旬にやってきて営巣し、8月中旬には去っていくとのことでした。
見上げるタブの枝から親鳥は頻繁に飛び立ち、すぐにセミを捕まえて戻ってきます。脚で捕まえたセミを口に運び、雛に与えます。アオバズクの食べ物は動物食。セミの他にカブトムシなどの昆虫類やトカゲや小型のヘビなどの爬虫類、ほ乳類も食べると言われています。
午後7時を過ぎて、アオバズクの姿がシルエットでしか見えなくなった頃、タブの大木から離れた雛は、神社近くの民家の屋根に取り付けられた地デジアンテナに親鳥といっしょに止まっていました。ここでも親鳥が飛んで、またアンテナに戻り、雛に餌を与えていました。アンテナには団子状態になった4羽のアオバズクの影。1羽が神社の方向に飛ぶと、残りの3羽も後を追います。「今夜の練習はここまでよ」と、親鳥が言っているようでした。写真はその時に撮影したもの。上が成鳥のアオバズク、下が雛です。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。