森里海の色
四季の鳥「ヨシゴイ」

ヨシ原に棲む三枚目

梅雨の合間の週末、大きな沼のほとりに立ちました。湿った大気の中を気持ちのいい風がときおり通り過ぎていきます。私がいる場所から水辺までは100 m ほどの距離があり、その間を広大なヨシ原が左右に広がっています。足下ではウシガエルが大きな声を響かせています。耳をすませば、遠くからオーオーと、今回ご紹介する鳥の声が聞こえてきます。サギの仲間のヨシゴイという鳥です。
日本で見られるサギ科の鳥は19種と言われていますが、その中でヨシゴイは最も小さい鳥です。それでも体長は36cmほどあります。日本には夏鳥として渡来し、九州以北で繁殖します。彼らが好む生息環境はヨシやガマの繁殖する池や湿地、河川ですが、私が暮らす神奈川県にはそうした環境はもうわずかしか残されていないので、県外まで少し遠出をしてきたのです。

葭五位

時刻は9時半を回ったところです。沼を見渡す光は順光で、空は高曇りの散乱光。梅雨の季節のこの時刻にしては、野鳥撮影に良好な条件でした。ヨシ原をすれすれに左右にヨシゴイがかなりの速さで飛んでいきます。近くを飛ぶヨシゴイにピントを合わせようと狙いますが、間に合いません。頭が黒青色の雄が多いようですが、胸に縦縞のある雌も飛んでいます。ヨシゴイはヨシ原に降りると、瞬く間に茂みに姿を隠してしまいます。
ヨシ原沿いに少し歩くと、ヨシ原の切れ目に動かないヨシゴイを見つけました。こちらの気配を察して、頭隠して尻隠さずの状態のまま固まっています。その場から少し離れて観察していると、スローモーションでヨシの茂みに姿を消していきました。サギの仲間には二枚目と三枚目がいますが、とぼけたような風貌のヨシゴイは、どう見ても三枚目の筆頭だと思います。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。