はじめてのこよみ暮らし
七十二候をはじめて過ごす「家族」の記録
紅葉狩
ハロウィンの日、しほと太郎は紅葉狩に出かけようとしています。
太郎 次の七十二候は「楓蔦黄」です。順当に紅葉を見に行きましょう。
しほ いいけど。どこに行く?
太郎 浜松城が紅葉まつりをやるくらい紅葉で有名だそうです。色づき始めるのは十一月の中旬らしいのですが。
しほ ふーん。じゃあ、とりあえずお城へ行こう!
浜松城へ向かう車のなか。紅葉について、しほはとある疑問を口にします。
しほ そういえば、なんで秋になると葉っぱは赤くなるんだろう。
太郎 葉っぱが枯れると葉を落とすため経路が遮断されます。そうすると葉で作られた栄養が茎へ流れなくなります。その栄養がたまって化学変化してアントシアニンになるんですよ。
しほ アントシアニンって、ブルベリーに入っているアレ?
太郎 そうです。アントシアニンは赤いので葉っぱが紅葉するんです。
しほ じゃあイチョウみたいに葉っぱが黄色くなるのは?
太郎 もともと葉には黄色いカロテノイドがあるんですが、葉緑素の緑が流れ出して少なくなりカロテノイドが目立つようになり、黄色くなるんです。つまり紅葉は着色の、黄葉は脱色の結果なんですよ。
しほ へー。
浜松城周辺の樹々は赤や黄に色づきはじめていました。
太郎 上を見れば黄葉で、下を見ればどんぐりですね。
しほ たまには上を見上げて歩くのもいいね。気持ちがスッキリする。しかーし、地面は驚くほど、どんぐりだらけだね。
太郎 この細長いのはたかだみつみさんの木版画に描かれたコナラのどんぐりですね。
太郎 浜松城も浜松オープンアートの野外展示をやっているようですね。広場にオブジェが建ち並んでいます。
しほ 紅葉狩をしながら芸術鑑賞もできるなんて、芸術の秋だね~。
そうこうしていると、太郎はしほを見失ってしまいました。
太郎 編集長は迷子かな?
しほ おーい! 太郎ー。
太郎 ん?(これは編集長の声かな)
しほ おーい!
遠くでしほが呼んでいます。太郎が声がする方へ行くとしほは移動式のカフェでココアを飲んでいました。
太郎 こんなところで油を売っていたんですか?
しほ 太郎も何か飲みなよ。
太郎 じゃあ、カフェモカください。
店長 はい。あったかいのですね。お仕事ですか?
しほ はい、取材です。
店長 へー、なんの取材で?
しほ 工務店さんのウェブマガジンです。突然ですけど二十四節気や七十二候ってわかります?
店長 聞いたことは、ありますね。
しほ 二十四節気や七十二候は、現代では一般の人の生活から薄れてしまったり、季節の変化にズレがあるんですけど、もう一度こよみを見つめ直すことで、自分たちの暮らし方や住まいづくりを、季節とともにあるものへ戻そうというウェブマガジンなんです。で、今日はその取材も兼ねてぶらぶら散歩しています。笑
店長 いいですね。季節を感じながら暮らすって大切だと思います。
しほ ですよね!
店長 じつは僕も昔は建築関係でね……(略)
しほと太郎は店長に別れを告げあたたかいものを飲みながら浜松城公園を散策を続けます。
しほ あれ、見て。なんかところどころ赤いのってカワイイね。
太郎 枝の先から枯れているので末枯でしょうね。
しほ あれ、ほんとうにカワイイよ。
太郎 松尾芭蕉の「侘び」とか「しほり」を現代風に翻訳したら編集長のおっしゃる「カワイイ」になるかもしれませんね。
しほ なんか紅葉狩だったけど、ふつうの観光になってたね。
太郎 ですね。ココア飲みながら公園を歩いたくらいですからね。
しほ でも、太郎が最後に俳句をつければそれが「こよみ暮らし」になるんだよ。
太郎 最後は僕頼みですか!
末枯や頭のさきがぱんぷきん 林甲太郎