森里海の色
木版画が彩る世界「ドクダミ」

緑の葉の中に白く映えるどくだみの花。悪臭と名前の響きで誤解されがちですが、生薬として尊ばれる有用植物です。


 
名前の由来は「毒矯み」あるいは「毒痛み」ではないかと言われている。「み」は、矯正の意味を持つし、「痛み」も毒を打ち消す、というような意味だろう。

どくだみの薬効は広く知られている。生薬としては「十薬」といわれ、十の薬効を持つのだそうだ。どくだみ茶も有名だ。どくだみ風呂なる入浴方法もある。

どくだみを、どくだみたらしめているのは、名前や効能だけではない。あのニオイだ。放っておいてもあちこちに生えてくる。抜こうとするとプチプチと切れて、独特の臭気を放出する。手につくとしばらくニオイが取れない。
良薬は鼻に苦し(ではないな。臭いの場合は、なんていうんだろう?)? 

嗅覚というのは、獲物を探したり、あるいは捕食者から逃れたり、ということのために発達してきた感覚だが、たとえば食べ物が傷んでいるかどうかの判断にも使える。無臭のガスにわざわざニオイをつけるのも、危険察知のためだ。

嗅覚は脳の扁桃体や海馬に直接送られるから、記憶との結びつきが強いともいう。
ちょっとしたニオイで、まったく気にもとめなかった記憶が一気によみがえることがある。

保存もできない、コピーしたりセーブしたりバックアップから復元したりもできないこの感覚、大切にしたい。
いつか、いろんなことを思い出せるように、いろんなニオイを嗅いでおこう。

文/佐塚昌則