季節をいただく

寿梅園

梅しごと

みどりの木漏れ日、地面に転がり風に揺れる若葉を見上げ、大地に触れた背中で息をする。青梅のさわやかな香りが胸いっぱいに入り、たわわに実る梅の枝は地面まで垂れている。宮口の梅農家、寿梅園ジュバイエンの畑。しばらく前までは、庭石菖ニワセキショウの小さな花に、ヨモギやカラスノエンドウなどが生い茂り、小鳥や蝶や虫たちの楽園だった。青梅の収穫に合わせて草は刈られて、心地よい風が抜けている。梅の実が小さいうちは、カラスノエンドウなどを刈らずに残すと草に虫が居座り、梅にはあまり登ってこないなど生態系をよく見て梅のお世話をしている。

梅干し

梅の仕事場を兼ねたカフェがあり、梅のお花見の時期など、時折、梅農家の「はたけごはん」をはじめ様々な催しがある。只今、青梅の収穫の真っただ中で、梅漬けの作業が一段落するまでは、カフェや催しは無く梅の受け渡しのみ。収穫したばかりの青梅は、みずみずしい肌つや、ゴロゴロと転がる音も重く、実も詰まっており、梅エキスや梅シロップ用とのこと。分けていただいた青梅の半分は、そのまま丸大豆醤油に漬けて青梅の醤油漬。残りは、切り目を入れて紀州から届いた蜂蜜に漬け込んだ。

実梅

駆け足のように季のうつろいは早く、待ったなしの梅しごと。寿梅園の梅漬けは、木なり完熟の梅に塩と紫蘇のみで漬け込み、梅酢もとても鮮やかになる。土用干しをする梅干しとは異なり、梅酢の中でしっとりしている。つい先日まで、細かい産毛に包まれていた遠州の宮口小梅は、既に熟し収穫が終わり、甘い香りを放っている。宮口小梅は醤油漬けとバルサミコ酢漬けに、完熟なので香りがうつれば出来上がり。すっきりした味わいで梅酢と同じく重宝します。

梅漬ける

日差しが強くなるにつれ、身体を動かした日は、少しの酸味と塩気が欲しくなる。今日は、玉ねぎを切り、紀州すさみから届いた夏みかんをほぐし、大人見の友人宅を訪ねて頂いたパセリと自家製梅酢を和えるだけ。あとは、梅漬けをひとつ入れたご飯が炊きあがるのを待つばかり。梅の枝にたわわに実っている特大の青梅が完熟して梅漬けになり、食卓に戻ってくると思うだけで酸っぱくなります。

青梅蜂蜜漬:大梅(寿梅園、遠州宮口)、蜂蜜(紀州串本)
青梅醤油漬:大梅(寿梅園、遠州宮口)、丸大豆醤油(栄醤油、遠州横須賀)
完熟小梅醤油漬:宮口小梅(寿梅園、遠州宮口)、丸大豆醤油(栄醤油、遠州横須賀)
完熟小梅ぶどう酢漬:宮口小梅(寿梅園、遠州宮口)、ホワイトバルサミコ酢(イタリア・モデナ)
梅酢和え:玉ねぎ(佐藤農園、遠州浜松)、夏みかん(紀州周参見)、パセリ・梅酢(遠州大人見)、器:木皿(Taller de Maeda、多治見)

寿梅園じゅばいえんブログ:http://aoume.hamazo.tv/

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。