森里海の色
柿木村の一輪挿し
「ナニワイバラ」

浪花茨

この時節、強い南の風が吹く。
青嵐だ。
風はやがて決まりごとのように雨を運んでくる。

裏庭のナニワノイバラが雨に打たれ風に煽られそれでも耐える姿はなんともいじらしく思える。
白い野茨を見るにつけ思い出す時代、歌がある。
60年代、僕らがまだ青の時代に若者の間で歌われたフォーククルセダーズの曲は何かしら愁いを帯びていた。
それは「花の香りに」という楽曲で妙に心に響いた。
才能溢れていた加藤和彦の名曲だ。

時が過ぎ、彼はいなくなり野茨も花を付けなくなった。

五月の風とナニワノイバラは特別な感情を想い起こさせる。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。