森里海の色
柿木村の一輪挿し
「オオテマリ」

大手毬

この季節、裏庭は一気に白い庭になる。
ついこの間まで翠色のボールだったのがアイスグリーンのボンボンに変わりそして今、白い手毬になって枝に沢山の花を咲かせている。

北に面した大きなガラス窓の前に植えた大手毬は朝な夕な日毎の季節の移ろいを彩の変化で間近に感じさせてくれて朝の楽しみなのだ。

離島で育ち嫁いできた家人に島の祖母から毎年のように手仕事の糸手毬が届いた。
それは手先が器用な祖母の作る錦糸銀糸の艶やかな色の手毬だった。
遠くに嫁いだ孫を慮る短い手紙と一緒の包みだった。

幾つかの手毬を壁に下げて愛しんでいたが時の移ろいとともに色褪せ、いつしかどこかにしまい込まれて分からなくなってしまった。

毎年花を付ける白無垢の大手毬の花を見るにつけあの糸手毬のことを思い出す。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。