森里海の色
柿木村の一輪挿し「ツワブキ」

石蕗の花

僕の住んでいる村の隣町は津和野という名前の小さな町だ。

山陰の小京都と呼ばれ半世紀前には若い女性の観光客でえらく賑わったがブームは去り、今は盆地にひっそり閑と佇む古き佳き町だ。

遥か昔、この地は石蕗が咲き乱れる里だったことでツワブキの里、転じて津和野という名前になったのだと聞いた。

町の中を流れる用水には鯉が放たれ観光客が餌を与える光景が微笑ましい。

その水辺や街角には今も石蕗の花が随所に植えられている。

石蕗と言うとなんだか固そうな響きだけど濃い緑の葉に黄色の花びらが宿る姿は色の対比が鮮やかに優しく目に映る。

家の裏庭の水辺に冷たい雨に打たれながら静かに咲いていたのを摘んで活けた。

凛とした姿が気高さを感じさせ一瞬たじろいだ。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。