季節をいただく

李

紅のスモモ・李煮

梅雨の晴れ間の畑。甘夏と柿は青々と繁る葉の合間に小さな実が見え隠れ、無花果いちじくも若く、初ものは次の満月頃になりそう。畑の奥にある2本のスモモの木から、甘い香りが漂い、真っ赤に熟れた小さな実がすずなり。実の重さで枝が地面に届くほどに、前日の雨風で落ちているものも多い。熟れた実は、ほんの数日で落ちてしまうため、数人で手分けして半日での収穫。枝が揺れるたびに熟した実がポロポロ落ち、はぜるので敷物を広げて集める。

李

籠とハサミを持って木に登ると、天に向かって真っすぐに伸びた枝々は陽当たりも良く、透けた白い衣をまとった真っ赤な実が並ぶ。白い衣はスモモが出すろうが含まれている果粉、ブルームと呼ばれ新鮮な証。手に触れると簡単にとれて輝いた紅の実があらわれる。枝の上で浴びる日差しに喉の渇き、ひとつ口に入れると柔らかい食感に淡い甘さ。ふたつ目の少し青みのある硬い実は、甘味と酸味が程よく混じる。自然のまま、肥料も薬もまかない畑、味の違いにいくつも口に運び、その度に種を大地に返した。

李畑

木陰には、敷物に山と積まれたスモモ。緑、黄、橙、紅、朱、赤、硬い、若い、熟れたのいろいろ。若く硬い実は各地への発送。熟れて張りのある美しい実は手渡しにてお届け。熟して割れた実は持ち帰って火を入れる。ジャムに蜜にと美味しいお話、居合わせた数人で口に運びながら手を動かすと仕分けも、あっという間に終わった。お隣の柿や甘夏に重なった枝を落とすと、風通しも良くなった。この居心地のよい木陰は、雉や狐のおやすみ処にもなっており、時折、顔を合わせる。

紙袋ひとかかえ百個ほど持ち帰り、洗いながらも、また口に。熟れた実は酸味のある皮をむき、鍋に並べると鮮やかな色合い、そのままトロ火にコトコト、時間におまかせ。しばらくするとゆっくり水が上がりはじめ、淡い甘酸っぱい香りが立つ。実が果汁につかり赤味が深まり、透けたように見えると火からおろして冷めるのを待つ。スモモのみ、何も加えずそのまま火にかけるだけ、酸味の効いた李煮は、湿気の多い時期のからだに合います。

食べ頃の完熟スモモは、翌日の梅農家の講座の果物として。紅のスモモ・李煮は、2日ほど冷やして寝かせ、養生甘酒の講座にて真っ白な白米麹の甘酒に浮かべた。白磁の器に、紅に透けた李煮をひとつ。鮮やかに浮かぶ姿しなを、しばらく眺めていた。
すもも(三方原)、器:白磁(黒田泰蔵)

李

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。