季節をいただく
いちじく煮
熟れたイチジクを枝からもいで、その場で割いてかぶりつく。みずみずしさと濃厚な甘さが広がり、舌の脇までくすぐられる。頬が落ちそうになる瞬間は、暑さも気にならない。日差しが強い日が続き、いくつも熟れるが、その見極めは鳥たちがひと足早い。頃合いと思えば、すでに先客あり、もう穴があいている。その横でカブトムシは枝をかじり見向きもしない。鳥や虫たち、人までも養うイチジク。その白い滴が染みついた手で、枝葉に触れたとき、降り注ぐ光を浴びた葉から、大地に張り巡らされた根っこから、今、食べたイチジクに凝縮されて、からだの一部になっていることを感じた。
桜が散る頃に、朝日を浴びたイチジクは産毛を光らせながら赤子の手のような葉を開きはじめていた。やがて梅雨を迎えて葉は生い茂り、暑い盛りには赤く甘い実りとなった。花が咲かないように見えるので「
遠い西から、野生の菌で醸された食パンがやって来た。軽く炙って、冷やしたイチジク煮をのせ、自然栽培の摘果みかんの滴をほんの少し垂らす。浅炒りのブラジルの豆を挽き、山の湧き水を沸かして珈琲を淹れる。各地から多くの人の手を介して集った食材が、目の前にあることのありがたさ。いただきます。
いちじく:遠州三方原、ブルーベリー:まさこオーガニック(遠州伊佐地)、摘果みかん:みたらいや(遠州三ヶ日)、食パン:タルマーリー(因州智頭)、珈琲豆(ブラジル):カフェシーン(遠州上島)