森里海の色
柿木村の一輪挿し「イロハモミジ」

辺境の山々も紅葉の盛りはとうに過ぎ、山全体を朽ち葉色が覆いもう既に冬支度の装いだ。
玄関横に植えたイロハモミジが大きく育ち毎年艶やかに彩を放ってくれる。
そこだけがまだ秋の名残を保っている。
浴室の大戸を開け放つと木風呂に葉が浮かび風雅な気持ちになる。
もうしばらくの間、冬ざれたこの時期を愉しませてくれるのだろうか。
色は匂えど散りぬるを……
赤子の手に似たこの葉形を万葉の時代から一枚いちまい数えてきた日本人の感性や美意識の深さに想いを馳せた。
花籠に挿さずモミジの色絵の描かれた器に水を張り浮かべてみた。

著者について

田村浩一

田村浩一たむら・ひろかず
建築
1954年生まれ。株式会社リンケン代表取締役。中国山脈の辺境の地で、美しい森や川や棚田に囲まれながら木と建築の仕事を展開。山野辺の四季の移ろいを感じながら、酒を愛し、野の花を愛で、暮らしに寄り添う棲家とは何かを考えながら生活している。一輪挿しはライフワークのひとつ。