季節をいただく

梅粥

五穀種の梅粥

静岡からの帰り道、青い空とは対照的に山がくすんだ赤に染まりはじめている。杉花粉の時期到来。今は、あまり症状は出ないが、あの憂鬱を思い出すだけで、目はかゆく、頭ぼんやり眠気を催す。天竜川を越え眠気覚ましに寄った喫茶店ガーランドにてサトウキビを分けて頂いた。ジャズが流れ独自のメニューにはずむ会話、人が行き交い出会う老舗。店頭には磐田産の有機野菜が並んでいる。

翌朝、サトウキビの芽が赤くなり膨らんでいるのを見て、食べずに苗として大地に戻すことにした。南方のサトウキビの植え付けは晩春なので、かなり早すぎるが土の中で眠らせた方がいいと思い、凍らないように深めに土を掘り返して埋め落ち葉で覆う。横たわっていた朽ちた木を返すと土から湯気、草の根は赤く染まり細かなひげ根を四方八方に広げている。その先では見えない菌たちが動き、土の中からゆっくりと春を迎えている。

畑を後にして浜北の梅農家、寿梅園に立ち寄ると小梅の大木は、赤い花芽が膨らみ咲き始めている。小梅のあと、大梅が満開の頃に梅の木の下を歩くと、梅の香を装うことができる。寿梅園では、2月末まで「お花見はたけごはん」として、カフェや昼食、ワークショップ、ライブなどがあり、毎年、賑わっている。風の強い中、梅の木を見上げながら歩いていると、モグラの穴に足をとられた。畑のあちらこちらにあるモグラの軌跡は春の知らせ。日も傾きはじめ足元から冷えてきたので、温かいものが浮かんだ。今日は、五穀種の梅粥にしよう。

五穀種

食事の質が落ち、量が増えると胃腸が重くなる。花粉の時期も近いので、小麦などの粉ものを控え、芽吹く種、粒ものでお粥。玄米をふたつかみ、大麦、もち麦、たかきび、もちあわを軽くひとつかみ。さっと水洗いし、たっぷりの山の湧き水を土鍋にはり、火にかける。蓋をあけたまま、しばらくお米を躍らせると、とろみが出る。やがてお米がふっくらとし、芯が残らないようになれば、大粒の梅漬けを入れ、蓋をかけてのんびり待ちます。

大地が潤いはじめる赤い芽吹きの時期は、「粉」より「粒」。食べたコナモノは水分を奪いながら腸に、ツブモノはたっぷりの水分を含みながら腸に届く。乾燥する時期、身体を温め内側から潤う五穀種の梅粥。薬味は刻んだ青ネギ、お供は自家製のお納豆に醤油麹。ゆっくり頂きました。大粒の梅の種は、いつまでも美味しさ染み出て、まだ、口の中にあります。

白梅

五穀の梅粥:自然栽培天日干イセヒカリ玄米(日月喜塾、遠州浜北)、梅漬け(寿梅園、遠州浜北)、もち麦(熊本)、大麦(宮城・秋田・岩手)、たかきび(長野)、もちあわ(長野)、青ネギ(羽田農園、遠州三方原)
納豆:大豆(フクユタカ)、納豆菌(イセヒカリ稲穂) 日月喜塾、遠州浜北
醤油麹:玄米麹(丸瀬家、伯州米子)、栄醤油(遠州横須賀)
器:伊集院真理子(平塚)
さとうきび苗:やまだ農園

寿梅園ブログ:「浜北の梅農家の日々いろいろ」
お花見はたけごはん(2/28まで)開催日要確認。
http://aoume.hamazo.tv/

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。