季節をいただく

麦みそ

麦味噌仕込み

曇り空の朝、波止場に寄ると長い竿先を海に入れワカメを絡め採っている。海の中も春、そろそろ味噌仕込みも終わりの時期、発酵女子たちが麦味噌を50kgほど仕込むとのことで加えて頂いた。味噌に醤油にパンにジビエ、身近にできることはこなすツワモノたちも麦味噌は初めて。まずは、滋賀長浜から取り寄せた無農薬栽培の小麦を精麦するため東へ向かう。菊川の河口近くの精米店には、戦後まもなくつくられた精麦機が現役で稼働している。静岡県内でも小麦を小さな単位で精麦できるところは少ない。小麦の玄麦を流し込み、待つこと数十分。麹が着きやすいように麦の皮を削る精麦具合を調整して頂いた。

玄麦

ニシノカオリ玄麦

日を改め天竜川河口近くの農産物加工場に集い、朝一番で麦の麹づけ。削った小麦を蒸し器に入れて強い蒸気にかける。蒸し上がると布の上に広げ、手が入る程まで冷まし、麦味噌用の麹菌を振る。小麦の温度と脂分でテカテカに輝いた手で発酵機に移して、まる一日待つ。

麦へ麹菌をふる

麹づけ

翌朝、布から出すと淡くも白い衣をまとった麦の粒々が現れた。一粒一粒の小麦についた麹の胞子たちが、花咲き笑っているかのように見える。小さな小さな菌たちが群れとなって生きている。できたての麦麹に塩を加えての塩きりも、麹菌のその姿を見るとていねいになる。

ムギコウジ

麦麹

圧力鍋に入れた北海道産無農薬栽培の大豆も蒸し上がったので、しばらく冷ます。手を少し入れることができる程になると、麦麹と混ぜ合わせ味噌すり機に入れて擂り潰す。あとは丸めて器に投げ入れ。焼酎で消毒した焼き物や琺瑯ホウロウの器が並べられ、ペッタン、ペッタンと音を立てながら次々と満たされた。

麦団子

味噌上面を整えて塩を振り、赤松の経木で蓋をした。梅雨明け夏の土用の頃まで待つ楽しみ。出来上がったら持ち寄って食べ比べなど談義は続いた。味噌も醤油も生きもの。食べものを育むことは、それを頂く自身を愛でること。風に舞った木蓮の白い花びらの先には、土筆が顔を出していた。

土筆

小麦:ニシノカオリ(長浜)、大豆:・トヨムスメ・トヨムスメ(北海道)、塩:シママース(沖縄)、麦味噌用こうじ菌(姫路)
経木:赤松材(山梨・長野)KIZARA Project http://www.kizara.org/

著者について

中小路太志

中小路太志なかしょうじ・ふとし
大和川が育む河内生まれ。幼い頃は田畑に遊び、野菜の虫取り、薪割り、風呂焚きに明け暮れ、炎と水を眺めて過ごす。潮騒、やまびこ、声など、耳に届く響きに趣き、コンサートホールの建築や音楽、舞台、展示制作に携わる。芸術と文化の源を求め、風土や人の営みから、言葉とからだ、食と農に至る。食べることは、天と地と人が繋がること。一粒の種から足るを知り暮らしを深める生活科学(家政学)を看護学校にて担当。天竜川流れる遠州在住。