森里海の色
四季の鳥「ハギマシコ」

魅了されるシックな赤紫色

10年ほど前の厳冬期、神奈川県下の丹沢の山に鳥仲間と登ったときのことです。牧草地になっている誰もいない山頂から斜面を眺めていると、80羽ほどの鳥の群がサインカーブを描くように飛んできて50メートルほど離れた木々に止まり、ジュイジュピュユピュとたちまち辺りが騒がしくなりました。双眼鏡を覗くと、頭が黒く、腹部が赤紫の美しい鳥でした。
ハギマシコを見たのはその時が最初でした。スズメよりやや大きく、尾羽はアトリ科の典型的な凹形をしています。雄は前頭部から腹面にかけて黒く、後頭部の黄褐色はときに金色に見えます。胸から腹にかけては白、赤紫色、黒の細かい斑紋が入り、ハギマシコの名前は、この赤紫の斑がハギの花のように見えることからきており、江戸時代には萩鳥、萩雀と呼ばれていたようです。英名はRosy finch。 海外でも美しい鳥としてお墨付きです。鳥の名にマシコ(猿子)と付く赤い鳥は他にもベニマシコやオオマシコなどいますが、この雄のハギマシコのシックな赤紫がいちばん味わい深い色に、私は感じます。
ハギマシコはシベリア東部からカムチャッカ半島、アラスカなどの山岳地帯で繁殖していますが、群はつくらずにペアで広い縄張りをもって分散してくらしています。冬になると、北日本の海岸線の岩場や本州中部の山地に、餌を求めて群をなしてやってきますが、訪れる場所はかなり偏在しています。

萩猿子

昨年2月、どうしてもハギマシコに会いたくなり、ハギマシコがいると思われる県外の山に登りました。山頂は所々にアイスバーンがあり、雪解けで山道はぬかっていました。この日のハギマシコとの遭遇はワンチャンスでした。やっと見つけた木の枝に止まっていた10羽ほどの一群は、雪混じりの道路に下り、採餌しながらこちらにどんどん近づいてくるという想定外の展開になりました。
ハギマシコの一群はその先に人がいることを知ってか知らずか全く無視して餌採りに集中していました。私は彼らを驚かさないように泥だらけの 地面に胡座をかき、背を低くして夢中でシャッターを切りました。なんと最短距離4メートル! ハギマシコはそこでようやく脇にそれていきました。

著者について

真鍋弘

真鍋弘まなべ・ひろし
編集者
1952年東京都生まれ。東京理科大学理学部物理学科卒。月刊「建築知識」編集長(1982~1989)を経て、1991年よりライフフィールド研究所を主宰。「SOLAR CAT」「GA」等の企業PR誌、「百の知恵双書」「宮本常一講演選集」(農文協)等の建築・生活ジャンルの出版企画を多く手がける。バードウォッチング歴15年。野鳥写真を本格的に撮り始めたのは3年前から。