フランスのヴァカンス

ところかわれば

森弘子

毎年夏になると日本に一時帰国をしているのですが、今年はコロナウイルス蔓延の影響で帰国を見合わせ、フランス国内に止まることにしました。日本へ一時帰国できないなら、フランスらしいヴァカンスを取ってみよう!ということで、バスク地方(スペインにほど近いフランス南西部)に行ってきました。

フランスでは8月に丸々一ヶ月ヴァカンスを取るのが主流。ずらして7月に取る人たちをJuillettiste(ジュイエッティスト、juilletteは7月、-isteは〜人の意味)と呼びます。我が家目の前の商店街では7月最終週からヴァカンスのために店を閉める店舗が多く、月末は移動制限中のような静けさでした。

フランス政府は今年のヴァカンスはフランス国内で過ごし、国内消費を促進することを推奨していました。特段日本のGo toのような具体的な支援策はないものの、多くの人が国内で過ごすことを選択したようです。

我が家では息子が1歳を過ぎ、いろんなことに興味を示しはじめているため、自然豊かなところへ連れていきたいと考え、バスク地方の海とピレネー山脈の山に向かいました。

多くの人が8月の頭からヴァカンスを取るので、出発した8月2日のオルリー空港は通常時のような混雑でした。入口と出口も厳しく分けられ、人が交差しないような工夫が施されていました。いたるところにアルコール消毒のスタンドが置かれ、1m以上の距離を確保するための注意喚起のサインが目立ちました。混み合わない工夫のため、搭乗は通常よりも開始が早く、飛行機へのリムジンバスも台数を増やし密度が上がらないようになっていました。機内はほぼ満席。ヴァカンスのための移動がほとんどで、家族連れも目立ちました。

オルリー空港ゲート前

出発間近のゲート前。通常時のように人が多く、左手の待合ベンチも1つ置きに席を飛ばして座るサインはほとんど無視された状態 空港内ではマスク着用が義務付けられている

到着して向かったのはフレンチバスクの中心都市であるバイヨンヌ。生ハムが有名です。市街地にはバスクらしい木に臙脂の塗装がされた伝統的な建物が並び、その前を流れるアドゥール川に反射し、美しい街並みをつくっていました。多くの店舗が開店していましたが、店内はパリと同様にマスクの着用が義務となっています。ちなみにバイヨンヌを離れた次の日から、バイヨンヌの繁華街では屋外でもマスクの着用が義務になりました。ヴァカンスで街に急激に人が増えたことが原因のようです。

次に目指したのはピレネー山脈。このヴァカンスの一つ目のハイライトであるガヴァルニー圏谷のトレッキングが目的です。ピレネー山脈への入り口に当たるルルドにも滞在しました。ルルドはキリスト教の聖地として有名です。通常であれば世界各国から病気や怪我の治癒を求めてルルドの泉を訪れる人でにぎわうのですが、今年は土産物屋も閑散としており、恒例の21時からのろうそく行列もルートを限定して行なっていたようです。

ルルドからバスで1時間ほど南下すると、目的地のガヴァルニー圏谷に到着します。滞在中は快晴がつづき、日中は気温もかなり上がるので、トレッキングは午前中に開始。息子を背負い、ガヴァルニー滝を目指しました。ガヴァルニー圏谷は、ガヴァルニー滝のビュースポットのあるホテルがあるところまでのルートはさほど難易度が高くなく気軽にできる日帰りトレッキングとして有名で、この日もそのホテルを目指すお年寄りから子どもまで、軽装で歩く人たちでにぎわっていました。トレッキングの帰りは麓のピレネー山脈の雪解け水の小川で川遊びをし、山と川を堪能しました。

ガヴァルニー圏谷

写真左中ほどに見える白い筋がガヴァルニー滝 すぐ足元までたどり着いたが、水しぶきがすご過ぎて息子が泣き出し退散 背後にあるのが3000m級のピレネー山脈で、山を越えた先はスペイン

つづいて向かったのは、海。フレンチバスクに戻り、サン・ジャン・ド・リュズを目指しました。サン・ジャン・ド・リュズと少し北にあるビアリッツはビーチリゾートとして有名で、フランス人の国内ヴァカンス先候補としても人気があります。着いてみると人も多く、案の定数日前から繁華街でのマスク着用が義務となっていました。

サン・ジャン・ド・リュズのビーチ

サン・ジャン・ド・リュズのビーチ 人は多いが、ビーチも海も広いので1mのソーシャルディスタンスは取れている様子

サン・ジャン・ド・リュズのあとはビアリッツに向かい、ほとんどをビーチで過ごし、フランスらしいヴァカンスを過ごした証のように、家族全員肌がこんがりと焼けました。このような状況にあってもフランス人がヴァカンスを取るのは国民の権利のようなもので、マスクを着用し、人と距離を取りながらも誰もがヴァカンスを楽しんでいる姿が印象的でした。

8月末に近づくにつれ、多くの人もヴァカンスからパリに戻ってきたようで、パリにも活気が戻ってきました。しかし、案の定パリ市内の新規ウイルス感染者数は増加し、8月28日からはパリ市内全域で路上を含め屋外の公共の場でのマスク着用が義務化されました。このヴァカンスがどのように影響するかは、これから数字に表れてくると思います。多くの人がこうなることを予想していたようですが、それでもフランス人の”権利”であるヴァカンスを止めることはできないようです。