はじめてのこよみ暮らし
七十二候をはじめて過ごす「家族」の記録
地の神さまのお祭り
浜松市に引っ越してもうすぐ4か月になる太郎。編集部の近所を歩いていると、民家の西北すみに祠があることに気づきました。インターネットで調べてみるとそれが「地の神さま」の祠であること、そしてこの原稿を書いている12月15日は地の神さまの祭日であることを知りました。太郎は、一緒にびお編集部で働いているさとみん(静岡県西部出身)に話をききます。
太郎 さとみんさんは民家の西北すみにある祠をご存知ですか?
さとみん そういえば実家にあったかも。東京にはないんですか?
太郎 見たことはないですね。編集長の実家の群馬県では?
しほ なかったと思う。
さとみん そうなんだ。静岡県だけなんですかね。
太郎 そうみたいです。今日12月15日は地の神さまのお祭りのようです。地元の方は何かしますか?
さとみん どうだろう。ちょっと祖母や友達にきいてみますね。
(数分後)
太郎 どうでした?
さとみん 12月15日は確かにお祭りがあるんですけれど、友達の家では忘れていたらしくて。これから神主さんを家に呼ぶらしいです。
太郎 なるほど。
しほと太郎はびお編集部のある南浅田の周辺を歩いて地の神さまのお祭りを見つけにフィールドワークに出かけます。
しほ 地の神さまのお祭りなんて見つかるかなぁ。
太郎 現場に出くわさなくても何か痕跡でも見つけられれば、と思っています。これは前から気になっていた、気合の入った地の神さまですね。
太郎 このお宅の地の神さまは塩が撒かれていますね。お神酒や塩が盛られています。
しほ お神酒は前からあったかも。でも道路にはみだすくらい大量に塩が撒かれているね。
太郎 地の神さまのお祭りだからでしょうかね。
地の神さまのお祭りの痕跡を見つけたしほと太郎はさらにフィールドワークを続けます。
太郎 この地の神さまは木製ではなくコンクリートで作られていますね。
しほ ……もぐもぐ。
太郎 屋根が割れたのでしょうか? テープで補修しています。しかも他の地の神さまは南を向いているのに、これは東を向いていますね。
しほ ……もぐもぐ。
太郎 さっきから何を食べているんですか。
しほ すごいよ、太郎。
太郎 えっ?
しほ あたり。
しほと太郎は近所にある浅間神社へ行きます。
太郎 地の神さまのお祭りですが、浅間神社では特に何もやっていませんね。
しほ そうだね。お参りしていこう。
太郎 はい。
お参りをしたしほと太郎、境内のすみに見慣れない木の実が落ちているのを見つけました。
しほ この木の実はなんだろう。たぶん、この高い木から落ちていると思うけれど。
太郎 常緑樹で葉が細長いですね。イヌマキではないでしょうか? 遠州地方ではイヌマキを細葉と呼んで、防風のための生垣にしたようです。
しほ そうなんだ。
太郎 浜松は冬の西北の風は厳しいと聞きます。イヌマキを見て思ったのですが、地の神さまも西北に建てられているのは冬の風と関係あるかもしれませんね。それと十二月十五日ごろは神楽や里神楽という神事の行われる時季、というのも関係しているかもしれません。
しほ かもしれないね。調べてみると面白いかも。
編集部に戻るしほと太郎。あるお宅の地の神さまに、あるものが供えられているのを見つけました。
太郎 編集長、これ、見てください。
しほ なに、あれ?
太郎 お赤飯を供えていますよ。
しほ ほんとだ。
太郎 イオン・スーパーで買ったお赤飯というのがリアルですね。
しほ 今日はたくさん地の神さまを見たね。
太郎 はい。浜松市以外ではどんな地の神さまがあるのか、天竜区など山間部ではどんな地の神さまなのか、気になりますね。
しほ そうだね。この記事を読んでくださった人から「うちの近所にはこんなのがある」とお便りがあると嬉しいね。
霜柱に傾いてゐる祠かな 林甲太郎