- 2020年12月20日更新
- 画 しゅんしゅん
仙之助編 二の九
仙之助は、Christmas Tree なる植木のことを粂蔵に相談した。居留地のホテルや岩亀楼も購入したと告げると、「ならば、うちも立ててみるか」と賛成してくれた。
ユージン・ヴァン・リードにそう意思表示すると、にっこりと笑って言った。
「 Good boy,Good Job 」
ヴァン・リードがその台詞を言うのは三度目で、仙之助は、それが自分への褒め言葉であることを理解して笑顔を返した。
仙之助も手伝って大八車から大きな木を下ろし、ヴァン・リードに言われるまま、大きな桶を運び込んでそこに木を立てた。
大八車には、大きな布袋も載っていた。ヴァン・リードは大黒天さながらにそれを背負って運び込むと、木を立てた桶の横に置いた。そして、袋の中から何が光るものを取り出した。
黄金色をした星形の飾りだった。
ヴァン・リードは宝物でも扱うようにうやうやしく手に載せて、それを大きな木のてっぺんに取り付けた。
袋の中には、まだたくさんの飾りが入っていた。ひときわ目を引いたのは、ガラスで出来た真っ赤な玉だった。杖のような形をした縞模様の飾りもあった。
女郎たちも起き出してきて、何事かと騒ぎながら大きな木を囲んだ。
粂蔵は、商売を始める夕刻になると廊下に並べる行灯を出してきて、中にろうそくを灯した。その光が赤いガラス玉に反射してキラキラと光った。
木の緑、ガラス玉の赤、星形の黄金色。なんとも華やかな色の競演だった。
ヴァン・リードは、得意げに言った。
「 Merry Christmas 」
仙之助は、オウム返しに聞き返した。
「 Christmas ? 」
植木の名前でもあるらしき、鈴の音が転がるように軽やかなその言葉の響きを仙之助は美しいと思った。粂蔵が木を見上げながらつぶやいた。
「異人の正月飾りのようなものなのだろう。見ているとなんとも気持ちが明るくなるな。いや、めでたい、めでたい」
すると、ヴァン・リードはその言葉に反応した。
「 Christmas ハ、メデタイ」
粂蔵は、その台詞を聞き逃さなかった。
「そうか、めでたいか。縁起の良いものなのだな」
ヴァン・リードはにっこり笑ってもう一度言った。
「 Christmas ハ、メデタイ。Merry Christmas 」
仙之助は、軽やかな響きの言葉の意味するところを何もわかっていなかったが、人の心を明るくする魔法の呪文のように感じて、記憶に深く刻み込ませた。