- 2021年10月24日更新
仙之助編 五の九
外国人居留地のはずれにある倉庫のような建物がユージン・ヴァン・リードの仮住まいだった。外壁が少し焦げていたが、延焼は免れたものらしい。
ジョンと名乗る異人と共に大八車を引いてあらわれた仙之助を見ると、ヴァン・リードは相好を崩した。
「センノスケ、タッシャデアッタカ」
「 Yes,I am fine. (はい、元気でおります)」
「ジンプウロウモヤケテシマッタナ。オマエノチチハタッシャデオルカ」
「はい、おかげさまで」
「センタロウハ、タッシャデオルカ」
「……」
「ヤマイガワルイカ?」
仙之助はうつむいたまま、首を振った。
「仙太郎は……」
いいかけたまま、言葉に詰まって、涙があふれてきた。ヴァン・リードはその表情をみて事情を察したようだった。二人の間にしばしの沈黙が流れた。
「センタロウハ……、Is he in heaven (天国にいるのか)?」
「 Heaven? 」
仙之助が聞き返すと、ヴァン・リードは答えた。
「ゴクラク……、ゴクラクジョウドノコトダ」
「極楽浄土……」
小さくうなずいた仙之助にヴァン・リードは意外なことを言った。
「オマエモ Heaven ニイクカ?」
「えっ、死ねと、切腹せよとおっしゃるのですか」
「 NO、NO、 ハラキリデハナイ」
「 What do you mean? (どういう意味ですか)」
「コノヨノ……ゴクラクジョウドダ」
「この世の極楽浄土?」
「イカニモ。センタロウハ、アノヨノゴクラクジョウド、センノスケハ、コノヨノゴクラクジョウド」
「 Where is my heaven (私の極楽浄土はどこにあるのですか)?」
「 Beyond the sea (海の向こうだ)」
「メリケンですか?」
「メリケンデハナイ、Hawaii だ」
「 Hawaii? 」
「イカニモ」