- 2024年12月22日更新
仙之助編 十八の十二
日をあらためて、仙之助と富三郎が山口林太郎に教えられた番地を尋ねると、立派な構えの写真館で、岩倉使節団の一行が集まっていた。いずれも従者と留学生たちとのことだった。仙之助と同年配くらいの若者もいれば、年かさの者もいる。子どもと呼んでも差し支えないような少年もいた。仙之助は捕鯨船に乗った遠い日のことを思い出していた。
林之助が仙之助と富三郎を紹介した。
「サンフランシスコでお世話になった同胞のお二人です。こちらで再会したのも何かのご縁と思い、お誘いしました」
もともと写真撮影の予定はあり、そこに二人を誘ったものらしい。
富三郎と仙之助は、自分たちの素性を詮索されることを恐れたが、そのようなことを問いただす者はいなかった。誰もが記念写真を撮ることに高揚して親しげに話しかけてくる。
富三郎はおずおずと最後列に立った。
仙之助は林太郎に誘われて、最前列の端に座った。
最初は戸惑っていた仙之助だったが、彼らと並ぶと、使節団の一員になったような錯覚に襲われるのだった。副使の従者の定員が多かったなら、伊藤博文が自分を従者に指名した気まぐれもあったかもしれない。
写真師が声をかける。
「Gentlemen, Are you ready?(紳士方、準備はよろしいか)」
最前列で写真機に向かうと、仙之助は、先ほどまでの戸惑った気持ちが不思議と落ち着き、自信に満ちあふれた表情になっている自分に気づいた。撮影の瞬間、岩倉使節団の一員になった幻想の中にいた。
数日後、出来上がった写真の受け取りに出向いた際、仙之助は、再び林之助と会った。そして、思いもかけない言葉を聞いたのである。
「伊藤様がお目にかかるとおっしゃっています」
「えっ?今何と」
「伊藤様が、仙之助さんにお目にかかるとおっしゃっているのですよ」
「本当ですか。私のことは何と……」
「語学に長けた在米の若者が伊藤様の従者になることを望んでいると」
「私の名前もお伝えくださったのですか」
「はい」
伊藤博文は、自分のことを覚えていて面会を承諾したのだろうか、それとも単に在米の若者と聞いて興味を持ったのだろうか。条約交渉が暗礁に乗り上げ、難儀しているとも聞いていた。そのような状況で、なぜ伊藤は自分と会ってくれるのだろう。さらなる従者を必要とする特別な事情があるのだろうか。
「明日の朝、アーリントンホテルにおいでください」
仙之助は、まさかの展開に心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。